杉並区の強制執行妨害事件から考える「賃貸経営のリスク」と「保証会社」の役割

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強制執行とは? 保証会社とは?

東京都杉並区のアパートで、家賃滞納による建物の明け渡し強制執行の現場において、執行官らが襲撃され、立ち会った保証会社の社員が死亡するという痛ましい事件が発生しました。 不動産賃貸業において「家賃滞納」は避けて通れないリスクですが、最悪の場合、このような悲劇的な事態に発展する可能性もあります。

本記事では、今回の事件をきっかけに注目が集まっている「強制執行」の実態や「保証会社」の役割、そしてオーナーが知っておくべき「自力救済の禁止」について解説します。

1. 事件の概要

報道によると、杉並区和泉のアパートで、家賃を長期滞納していた居住者(40代)に対し、裁判所の執行官や家賃保証会社の社員らが「強制執行」の手続きのために訪問しました。その際、居住者が何らかの液体を撒くなどして抵抗し、火災が発生。これにより、立ち会っていた保証会社の男性社員(60代)が死亡し、執行官らも負傷しました。

家賃滞納の末に行われる法的手続きの現場で起きたこの事件は、賃貸経営におけるリスク管理の難しさを改めて浮き彫りにしました。

2. 強制執行とは何か

「強制執行(断行)」とは、借主が家賃を滞納し、裁判で「建物を明け渡せ」という判決が出てもなお退去しない場合に、国(裁判所)の力を借りて強制的に退去させる手続きのことです。

強制執行の流れ 手続きは以下の3ステップで進むのが一般的です。

  1. 申立て: 裁判所に強制執行を申し立て、執行官と打ち合わせを行います。
  2. 明渡しの催告: 執行官が現地に行き、「〇月〇日までに退去しなさい」と最終通告(公示書の貼り付け)を行います。
  3. 明渡しの断行: 期限までに退去しない場合、執行官や専門業者が鍵を解錠し、荷物を運び出して強制的に空室にします。

費用と期間 強制執行には多額の費用がかかります。執行官への予納金(6〜7万円程度)に加え、荷物の搬出・保管・処分費用などで、ワンルームでも数十万円、荷物が多い場合はさらに高額になるケースがあります。また、手続き完了までには申立てから1ヶ月半〜2ヶ月程度かかります。

3. 家賃保証会社とは

家賃保証会社とは、借主の連帯保証人を代行し、家賃滞納が発生した際にオーナーへ家賃を立て替えて支払う会社です。

保証会社の主な役割

  • 滞納家賃の保証: 毎月の家賃や共益費などを立て替えます。
  • 法的手続きの費用負担: 訴訟費用や弁護士費用、さらには高額な強制執行費用(残置物撤去費用など)を保証するプランも多くあります。
  • 督促・明け渡し業務: オーナーや管理会社に代わり、督促業務や明け渡しのサポートを行います。

近年では、連帯保証人を立てにくい高齢者や単身者が増えているため、保証会社の利用が一般的になっています。また、2025年10月からは改正住宅セーフティネット法が施行され、国が認定する保証業者による見守りサービスなどの支援体制が強化される予定です。

4. 居住者とのトラブルを防ぐために何ができるのか

家賃滞納や立ち退きトラブルを未然に防ぐためには、以下の対策が重要です。

  • 入居審査の徹底: 支払い能力や過去の滞納歴を確認します。
  • 家賃保証会社の利用: 万が一の滞納に備え、金銭的リスクと法的手続きの負担を外部化します。特に強制執行が必要になった場合、費用負担だけでなく、今回のような現場対応のリスクも軽減できます。
  • 早期の対応: 滞納が発生したら放置せず、早めに連絡を取ることが重要です。滞納が長期化するほど解決が難しくなります。

5. 「自力で退去してもらう」ことの重大な問題点

家賃を払わないなら勝手に鍵を交換したり、荷物を外に出したりすればいいのでは?と思うかもしれませんが、これは**「自力救済(じりききゅうさい)」**と呼ばれ、日本の法律では原則として禁止されています。

自力救済のリスク 裁判所を通さずに実力行使で追い出しを行うと、以下のような責任を問われる可能性があります。

  • 刑事責任: 住居侵入罪、器物損壊罪、窃盗罪などに問われる可能性があります。
  • 民事責任: 借主から損害賠償(慰謝料や荷物の弁償)を請求され、裁判でオーナー側が敗訴するケースが多数あります。

2022年の最高裁判決でも、保証会社による契約条項に基づく「鍵の交換」や「荷物の処分」といった追い出し行為は違法(無効)であると判断されました。 「家賃を払わないのが悪い」という理屈であっても、法的手続きを経ない追い出しは許されません。

6. 居住者と良好な関係をキープするためにできること

トラブルを避け、安定した賃貸経営を続けるためには、日頃の管理と「つながり」が大切です。

  • 見守りサービスの活用: 高齢の入居者に対しては、センサーや訪問による安否確認サービスを導入することで、孤独死や異変の早期発見につなげられます。2025年の法改正でも「居住サポート住宅」として推奨されています。
  • 専門家との連携: 管理会社や弁護士、居住支援法人と連携し、入居者が経済的に困窮した際には、福祉サービスの窓口へつなぐなどのサポートを行うことが、結果的に家賃滞納の深刻化を防ぐことになります。

今回の事件は極めて稀なケースですが、賃貸経営にはリスクが伴うことを再認識させられます。適切な保証会社の利用と法的手続きの遵守が、オーナー自身の身を守る最大の防御策と言えるでしょう。

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